子宮移植を考える―Ⅻ

おわりに
 代理懐胎や子宮移植をめぐる議論は、個人の願望の達成と全体の秩序の維持をどのように調和させていくのかに帰着します。代理懐胎が認められている地域が先進国中にそれほど多くないのは、他の技術に比して生物学的秩序からの乖離が大きいこと、多くの場合不妊夫婦の希望が叶えられる反面、少数とはいえ児にとって、また懐胎する女性にとって好ましからざる結果が起こりえます。代理懐胎の代替手段である子宮の生体間移植の場合、疾患のない子宮を健康な女性から摘出することの是非、目的が依頼者の疾患治療ではなく子どもを持つことである場合の臓器移植の是非など、代理懐胎とは異なる倫理的課題が残ります。
 こうした医療行為の是非については、学会を中心に検証や制御してきた従来のあり方が、そのままでは通用しない状況になってきています。医療以外の専門的な見解も取り入れて、かつ国民の意見も考慮した一種の社会的な合意といいうるものを、何らかの実効的な権限の裏付けの下に形成しなければ、問題に適切に対応できないという構造をみてとれます。

(吉村 やすのり)

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