子育て世代の時間貧困

時間の余裕のなさを示す時間貧困が、6歳未満の子どもを育てる世代を苦しめています。正社員の共働き世帯の3割が、十分な育児家事や余暇の時間をとれない状況に陥っています。母子家庭では育児に充てる時間が2人親家庭の半分以下で、家族の形による育児時間の格差も広がっています。国際的にも日本人の子どものケアや余暇などに充てる時間は、G7で最も少なくなっています。
慶應義塾大学の調査によれば、6歳未満の子どもがいる正社員の共働き世帯の場合、31%が時間貧困に陥っています。妻と夫で分けると、妻の80%が時間貧困だったのに対し、夫は17%です。夫の家事への参加時間の少なさが、働く妻の余裕を無くしています。千葉大学の調査によれば、1996年から2016年の20年間で、2人親の家庭と母子家庭の育児時間の格差は拡大しています。6歳未満の子どもがいる場合、2人親家庭の母親が1日225分を育児に充てているのに対し、母子家庭では102分と半分以下で、1日2時間の差がみられます。2人親家庭の女性が、家事や余暇を減らして育児時間を増やしたのに対して、母子家庭は家事時間を減らすのが難しくなっています。日本の母子家庭の女性は、労働時間が長いうえ、深夜や早朝の就労が多く、外部からの助けがなければ家事を減らすことが難しくなっています。
世界でも日本人の時間貧困は際立っています。日本は、G7のうち有償労働が最も長い一方、子どもや個人のケア、余暇に充てる時間は最も少なくなっています。新型コロナウイルス禍でテレワークが進み、通勤時間が減った人もいますが、年収が低い人ほどテレワークの実施率は低くなっています。所得の問題だけではなく、生活時間に余裕がなければ子どもを多く育てることはできません。少子化を加速させないためにも、男性の家事参加はもちろん、働き方の見直し、家事の一層の支援が喫緊の課題となっています。

 

(2022年8月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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