定年消滅のための3つの要因―Ⅳ

高齢期就業の課題
従来の定年延長や再雇用の制度拡大を背景に、高齢期の雇用は新しい年代ほど着実に増えています。しかし、大きなネックとなっているのが、日本型雇用慣行です。年功型賃金体系のまま、全社員の退社時期を遅らせたなら企業の人件費負担は急増してしまいます。そのため、日本企業ではシニア社員の賃金カットが大きく進みました。一般に定年後再雇用の賃金は、それ以前の5~7割程度になることが多くなっています。
日本は高齢期のスキル開発でほかの先進諸国に大きく後れを取っています。従来の日本型雇用慣行は、メンバーシップ型と呼ばれ、職務内容を限定しない形で新卒一括採用を行い、年功型賃金の下で社員の配置転換を繰り返しています。専門性を持った人材が育ちにくく、高齢期の処遇と人材活用面で課題を抱えています。
これに対し、海外で主流のジョブ型では、職務内容を限定し、職務ごとに賃金は決まっています。特定の職務に空きが生じれば、補充・採用する形が取られ、社員の配置転換はありません。そのため、同じ職務内容なら年齢に関係なく賃金は原則同一です。高齢期の人件費増加は起こらず、海外ではそもそも社員一律の定年という概念もありません。
日本の企業が、今後高齢期雇用を拡大する中で、賃金の決まった特定職務を適性に応じてシニア社員に提示する方法へシフトしていく必要があります。コロナ禍で拡大したテレワークは、シニアの就労に追い風であり、得意分野さえ確立すれば、高齢期には元の会社にこだわる必要もありません。自分の希望する年金給付水準確保のために、どの程度の受給開始年齢の繰り下げが必要かを確認し、そこに向けたスキル開発に着手すべきです。

(週刊東洋経済 10月17日号)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。