実験動物の進化

安全な医薬品やワクチンを開発したり、病気の治療法を確立したりするには、マウスなどの実験動物を開発することが必要になります。重度免疫不全マウスと呼ばれるネズミは、再生医療の安全性の確認に欠かせません。理化学研究所などのチームが、2014年のiPS細胞から作製した網膜細胞を目の難病患者に移植した世界初の臨床研究でも、移植実施前の安全検証に活用されました。外部からの遺物を攻撃する免疫システムが働かないため、移植された細胞への拒絶反応が起こりません。
人のがん遺伝子を受精卵に組み込んで作製したrasH2マウスは、発がん性物質に高い感受性があり、短期間でがんを発症します。新薬の候補物質を投与して発がん性があるかを確かめる場合、通常のマウスなら2年かかりますが、半年ほどで結果が出ます。製薬企業などから高い需要があり、欧米では1匹9万円を超える高値で販売されています。実験用マウスは、受精卵の凍結保存技術などを駆使して遺伝的な特徴を何世代にもわたり維持しないと、実験結果にぶれが出て使えません。質の高い実験用マウスをすぐに使える環境を整えることは重要です。

研究の発展には避けて通れない動物実験ですが、動物が健康で幸福に生活できることを重視する考えが世界的に広がり、実験動物そのものの数は減少傾向にあります。日本実験動物協会の調査によれば、マウスやラット、サル類など主な実験動物の2019年度の国内販売数は約373万匹です。約932万匹だった2001年度の半分以下の水準となっています。
背景にあるのは、3Rの原則の国際的な普及・定着です。英国の科学者が1959年に提唱したもので、①動物の苦痛の軽減 (Refinement)、②使用数の減少 (Reduction)、③代替法の活用 (Replacement)を求めています。

 

(2022年9月4日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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