新型コロナウイルスの予防ワクチンの実用化

ファイザーのワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)という遺伝子に働きかける物質を使ったものです。mRNAを通じて体内で新型コロナのたんぱく質を作り、それを免疫が捕捉し記憶します。本物のウイルスが侵入した際、素早く排除する仕組みです。通常のワクチンと違いウイルスを培養する手間が不要で、簡単素早くワクチンを製造できる利点があります。
モデルナは、11月末までに最終段階の治験で有効性を確認した上で、12月にもFDAに緊急使用許可を申請し、承認を受ける見通しを示しています。米ジョンソン・エンド・ ジョンソン(J&J)や英アストラゼネカは年内にワクチンの有効性を確認できるとしています。
予防効果が長続きしないとされる点が懸念材料です。英インペリアル・カレッジ・ロンドンは、新型コロナに感染した人の防御抗体が3カ月で4分の1に激減したとする報告を発表しています。防御抗体が数カ月で失われてしまうのであれば、感染を防ぐために1年間に何度もワクチンを接種する必要が出てきます。
さらに最大の課題はワクチンが本当に安全かどうかの見極めです。アストラゼネカらが扱うウイルスベクターワクチンは、新型コロナの遺伝子情報を持った別のウイルスを人体に投与します。mRNAワクチンと比べて副作用が起きやすいとの指摘があります。拙速なワクチン開発には慎重な姿勢が要求され、実用化後も継続的に効果や安全性を評価していくための仕組みが重要です。ワクチンの必要性はよく理解できますが、安全性の検証が何よりも大切であり、実用化を急ぐことなく時間をかけるべきです。

(2020年11月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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