新生児医療への期待

新生児医療に携わる医師の総労働時間のピークは、60~69 時間の位置にあり、厚労省が超過勤務の目安とする60時間以上の勤務をする医師は、43.0%に上っています。また常勤の新生児科医の総時間外労働時間については、働き方改革における原則の上限である年間 960 時間を超過した医師が、58.0%を占めています。最大の上限である1,860時間を超過していたのも14.2%に達しています。
さらに全国を6つのエリア(北海道・東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州)に分け地域差を見ると、北海道・東北地方における総合周産期母子医療センターに勤める 30~40 歳代の常勤男性の約4割が、1,860時間を超過しています。年 960時間を超える割合も8 割以上に達しています。
近年は女性医師が新生児医療の中心を担う時代になりつつあり、女性医師が 8 割を占める県もいくつかあります。非常に過酷な条件での勤務が強いられています。現状の医療体制を維持していくためには,ライフプランも考慮し、女性が気持ちよく働ける体制にもならなければなりません。厳しい現実にもかかわらず、赤ちゃんを救いたいという思いで新生児科を希望してくれる医師が毎年たくさんいます。しかし、やはりモチベーションだけではいつか限界が来てしまいます。キャリアとプライベートを両立させるシステムを作らなければ,持続性を失ってしまいます。
わが国の新生児医療を守るためには、携わる小児科医の人数を増やすことです。一部の医師の献身によって成り立っていた医療体制と決別しなければなりません。少子化だから小児科医の数を減らすといった単純な構図ではなく、子どもが心身共に健康で生活できる環境を構築し、日本の将来のために出生数が増加するような社会を作ることに主眼を置くべきです。2019年に成育基本法が施行され、こども庁創設に関する議論も始まっており、国全体として子どもに対して投資をしていこうとの気運が生まれています。安心して子どもが産める、子どもを持つ夢が持てるような社会を目指すことが、少子化社会脱却のための近道です。

(2021年7月5日 週刊医学界新聞)
(吉村 やすのり)

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