日本の研究力低下

文部科学省科学技術・学術政策研究所の科学技術指標2021によれば、日本の研究力の低下が著しいとされています。研究分野別の引用数がトップ10%に入る優れた論文を基に国際比較した順位を発表しています。引用数は良い論文かどうかを判断する目安です。順位で日本は、1997~1999年の平均ではシェア6.1%で4位でしたが、2017~2019年の平均では2.3%で10位に落ちています。論文の数では2位から4位になっています。
2000年代以降、日本と順位を競う国々は研究資金を増やしていますが、財政が厳しい日本は、研究開発費が伸び悩んでいます。他に、大学などに勤務する研究者が、研究以外の業務に割く時間が増えて、研究時間を確保しにくくなったことも関係しています。文部科学省の調査によれば、研究者の仕事のうち研究活動に充てられる割合は、2002年度に46.5%でしたが、2018年度は32.9%に減っています。
2000年の国立大学法人化により、運営費交付金が約10年にわたって毎年1%ずつ減少しています。交付金が減るにつれて、研究者は研究資金を自ら獲得しにいく競争的資金に頼らざるを得なくなっています。また、大学院重点化で博士号取得者は増えましたが、大学などに安定した正規の職を得るのは難しく、博士課程に進む学生が減っています。
資金を得るには申請書を書く必要があり、教員が事務作業に時間を取られると研究時間は一層削られてしまいます。申請作業を手伝ってきた事務職員も交付金削減の影響で減り、サポート体制も弱くなっています。また研究者のうち若手が就くポストは有期雇用が増えていて、すぐに研究の成果を出さないといけません。
将来の研究を担う世代が、博士課程で安心して学べる環境づくりが大切です。博士号を取得した後の働き口も多様化される必要があります。企業などが博士号を持つ専門人材を積極的に採用するようになれば、院で学ぶ人が増え、研究力が底上げされると思われます。

(2021年10月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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