残業長時間労働の是正 ―残業ゼロへの挑戦―

 労働生産性とは、投入した労働量に対してどれ位の生産量が使われたかを表す指標です。分かりやすくいえば、一定の労働時間あたりの生産量で表されます。国の経済活動の効率性を示すデータの一つです。日本の全産業で見た労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)の加盟国34カ国中22位にあたります。これは、米国の6割程度の水準にすぎません。日本の生産性は先進国の中で低く、長時間働いている割に付加価値を生んでいないことになり、労働力を十分に活用できていない面があります。この労働効率の低さは、自らの役割分担の認識のなさに起因しています。わが国の労働者は、主体性を持って自らの仕事をしているのではなく、仕事をさせられている状況にあります。
 わが国においては、これまで長時間労働が当たり前であり、残業前提で仕事をしてきていました。長く遅くまで働くことが美徳であり、他人が仕事をしていると自分の仕事が終了してもなかなか帰宅できない状況にあります。こうした長時間労働による残業時間の増加は、管理職の行動様式に問題があるように思えます。管理職にある者が部下に対して短期的そして中長期的な明確な到達目標を設定していないため、部下が主体的に仕事に関わることができない状況に置かれています。部下に残業が出ることは、管理者のガバナンスのなさ、定常でない業務が出た時の対応能力のなさに依ると考えられます。このフレキシビリティの欠如は、リスク管理の甘さにもつながります。わが国において、労働力の対価として支払われる給与は、年功序列性であることが多く、成果主義ではありません。働き方においても、在宅勤務やフレックスタイムにより自らが労働時間を決定することもできるような環境も整備されていません。
 一億総活躍社会の達成のためには、長時間労働を是正し、残業時間ゼロを目指さなければなりません。男性の長時間労働は、女性にも同じ働き方を強いることになります。フランスにおける女性活躍の推進や出生率の回復には、長時間労働の是正を含めた労働環境の改善が大きく貢献しました。女性の社会進出は、男性とセットで進めるべきです。医療においても同様のことが言えます。女性医師の就労維持のためには、ON-OFFを明確化し、主治医制を廃止し、チーム医療を導入し、効率的な勤務体制を構築しなければなりません。これまでの主治医制のままでは、ますます長時間労働に拍車をかけることになり、安心・安全な医療を提供できなくなります。国民にも理解を求めなければなりません。医療を特殊な職種と考えるのではなく、残業をしなくてもいかなる事態にも対応できるような勤務体制を確保するべきです。

(2016年7月21日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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