消滅可能性都市提言から10年

2013年に国立社会保障・人口問題研究所は、2040年までに、市町村の半分が消滅する可能性があるとの提言を出して、10年以上が経過しました。しかし、人口減の勢いは止まらず、この国の未来像は今もかすんでいます。
第2次安倍内閣で地方創生相が誕生し予算を付けたのは良かったのですが、人口減対策を盛り込んだビジョンと総合戦略づくりを自治体に求めたことで、地域間競争になってしまいました。議会による検証にたえるため、自治体が短期的に成果を出そうとすれば、対処療法的に他地域から移住者を増やす社会増を狙うことになります。自治体同士が人口の奪い合いをしても、全国で考えれば無意味です。まち・ひと・しごと創生、一億総活躍など、看板は毎年変わったものの有効な少子化対策にはなりえませんでした。何年か経って担当者が変わるとルーティン化し、形式的になり、成功例をまねすれば、国からの交付金が取れると考えた自治体が、東京のコンサルタントと契約して計画づくりをしてきました。岸田政権は、異次元の少子化対策を打ち出しましたが、同じくらいの規模の政策をもっと早く打ち出すべきでした。例えばドイツでは、15年ほど前に、若者世代が仕事と子育てを両立しやすくする抜本的な政策を採り、出生率が急上昇しました。
2014年の提言では、若年女性が減る自治体を消滅可能性都市の最大の要因と言います。若い女性が減ると社会減になるだけではなく、子どもを産む人が減るので自然減も進み、ダブルで効いてきます。男性の場合、進学や就職で転出しても、30代以降に戻る人も少なくないのですが、女性はほとんど戻りません。女性の働き口の選択肢が圧倒的に都会の方が多いことに加え、地方の閉塞感を訴える女性が多くなっています。東京は給与水準が高くても家賃や食費がかさむため、可処分所得では必ずしも地方が不利ではありません。それでも多くの女性が故郷に戻らない理由を考える必要があります。
通勤時間が長く、子育て環境も良いとは言えない東京に人が集まると、人口減が進んでしまいます。なるべく地方で頑張りましょうと呼びかけたわけですが、結果として東京一極集中は止まっていません。東京も本気を出して出生率を上げないと、国全体として効果が出ない段階になっています。結婚・出産・子育てに優しい企業かどうかを見える化し、就職活動をする若い人たちも情報を得られるようにする、といった改革が必要です。
現在、若い世代特に女性は、子どもを持つことはリスクだと考えています。子どもを幸せにできるのか、教育費はどれだけかかるのか、自分のキャリア形成の時間が奪われるのでは、実に多くの懸念を感じています。そのリスクをまずは全て除去しなくてはいけません。その上で、仕事をしながら子育てをすることは、ハンディやリスクではなく幸せなことなのだと感じるような社会の仕組みを作ることが急務です。これまでの政策決定者は、普通の市民、特に若い人たちとのコミュニケーションが不足しており、決定的な世代間の意識ギャップがあります。若い女性の声を拾い、政策に結びつけることが大切です。
キャリアの問題で言えば、日本固有の新卒一括採用・年功序列・終身雇用というメンバーシップ型のモデルは、崩していく必要があります。いま欧米的なジョブ型の雇用形態に変えていくべきだという議論が起きていますが、メンバーシップから外れた非正規雇用の問題の解決は、出生率にも関わるからです。若年人口がさらに急激に減少する2030年頃が挽回のラストチャンスだと言っていますが、遅れれば遅れるほど厳しくなります。今が最後のチャンスだと考えるべきです。

(吉村 やすのり)

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