無痛分娩のリスク

 無痛分娩の主流は、硬膜外鎮痛法です。硬膜外無痛分娩では、陣痛が始まって子宮口が数㎝開いた頃、分娩台の上で横たわるか座った状態になった妊婦の腰付近から、脊髄を包む硬膜の外側に細い管を入れ、その後麻酔薬を注入します。薬の注入は、お産が終わるまで続けられます。作業は麻酔科医が担うこともあれば、麻酔科医が常駐していない施設では産科医が実施する場合もあります。無痛分娩のメリットは、痛みを和らげることで母親がパニックに陥らず、落ち着いて出産を体験でき、痛みによる体の緊張が少なく、産後の体力回復が早くなると考えられています。麻酔薬が効くと陣痛を促進するホルモンの一種オキシトシンの分泌が減少し、陣痛促進剤を投与するケースが多くなります。
 硬膜外無痛分娩は、麻酔薬注入の際に誤って脊髄液の入っている脊髄内や血管の中に麻酔薬を注入用の細い管が入ってしまうことがあります。それに気づかず、そのまま一度に大量の麻酔薬を注入してしまうと呼吸が停止することもあります。また、麻酔薬によって血管の緊張がとれ、母体の血圧低下を引き起こすこともあります。無痛分娩は知識、技術、経験のある医師が適切な施設で行えば、お母さんにとってはメリットも大きい医療行為です。しかし、出産の現場で産科麻酔の知識や技術・経験のある医師が不足しており、必ずしも安全な体制で無痛分娩を実施できる環境が整備されていないことも問題です。

(2017年6月25日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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