無痛分娩の安全対策

 無痛分娩は、出産前に背中から針を入れ、脊髄を取り巻く硬膜の外側に麻酔薬を注入して出産の痛みが脳に伝わるのをブロックする硬膜外鎮痛法で実施します。薬剤を投与する位置や量などに注意が必要ですが、局所麻酔のため、呼吸管理が必要な全身麻酔より比較的容易に行われています。日本産婦人科医会の調査によれば、全出生数約97万人のうち、無痛分娩で6.1%で実施されています。2014年度の4.6%、2015年度の5.5%から少しずつ増加しています。費用は健康保険の適用外で、普通分娩の費用に5万~20万円ほど追加されます。このような無痛分娩を巡っては、妊産婦や赤ちゃんが死亡したり、後遺症を負ったりするケースが報告されています。
 無痛分娩では、患者の状態をこまめに観察する必要があるほか、呼吸管理のため難易度が高い気管挿管などが求められることもあります。緊急時には産科医と麻酔科医、新生児科医の3人の医師がいることが望ましいとされています。無痛分娩は欧米で広く普及しています。日本産科麻酔学会によれば、帝王切開以外で無痛分娩を選んだ妊婦の割合は、米国で6割、フランスでは8割、英国やドイツは2割程度に達しています。大規模病院には、麻酔科の中でも産科に特化した産科麻酔医がいます。一方、日本では産科医が1人か数人だけの診療所で出産することが多くなっています。妊産婦の急変に対応できるよう準備するため、無痛分娩を行う産科医には、高度な教育プログラムへの参加を求めていくことが必要となります。産科医の不足や地域偏在を背景に、周産期施設を統廃合する動きが出ており、今後、さらなる集約化も必要となってくると思われます。

(2017年10月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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