生殖医療と周産期医療の狭間で―Ⅰ

生殖医療のあけぼの
生殖医療という用語が使われ出したのは、1990年代である。それまでは不妊治療と呼ばれており、排卵誘発、卵管のマイクロサージェリーや人工授精など、あくまでも自然の生殖過程、いわゆる体内における受精を再現する医療手段であった。1978年のエドワーズ、ステプトー両博士によるヒト体外受精・胚移植の成功を契機として、世界は従来の不妊治療と決別することになった。地道な生物学の成果と不妊治療が合従して登場した体外受精・胚移植(IVF-ET)は宿志を遂げた観があり、革新的な不妊症の治療として導入され、瞬く間に世界に普及していった。これまでにわが国でも60万人以上の子どもがこの技術により誕生している。
法律家は古くから非配偶者間人工授精の法的諸問題に関わってきており、これらの医療においては人為的な操作により子どもをつくることになることから、国の委員会では自然生殖に対する表現として人工生殖という用語を使用していました。しかしながら、この言葉は不妊治療に従事するわれわれにとって大変不堪な用語であったこともあり、1990年代の後半、厚生科学審議会専門委員会に参加させていただいた折に、ヒト体外受精をはじめとする先端的な不妊治療を生殖補助医療と呼称したいと提案した。それ以来、いろいろな分野の専門家の方々も生殖補助医療という用語を使用されるようになった。最近では不妊治療という用語もあまり使用されなくなり、生殖医療という用語に統一されるようになってきている。現在も生殖医療あるいは生殖補助医療(ART)という用語が使用され続けているのは望外の喜びである。

(生殖医療と周産期のリエゾン 診断と治療社)
(吉村 やすのり)

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