生殖医療における親子関係―Ⅱ

 民法には、生まれた子どもの父親は、身ごもった女性の夫と推定するという嫡出推定が盛り込まれています。しかし、民法ができた明治時代に、精子や卵子の提供、代理出産、さらにLGBTの存在について想定されておらず、21世紀の多様化した家族には対応できていません。生殖の多様化が起こっている現在、特に第三者が関わる生殖医療で生まれた子どもの親を法律で定めておく必要があります。生殖医療の細かいあり方にまで国が介入することには抵抗感を覚えますが、生まれた子どもを守るためにも、親子関係をめぐる民法の改正は最低限必要であると思います。
 2003年に、厚生労働省の審議会が5年の歳月を要し、生殖医療のルールに関する報告書をまとめました。法務省の法制審議会も、血縁上のつながりはなくても、産んだ女性が母親、夫で生殖補助医療に同意した人が父親、精子提供者は父親ではないとする試案を出しましたが、法制化に至りませんでした。2013年より、自民党のプロジェクトチームが法案をまとめていますが、なかなか国会に提出されないのは優先順位が低いからです。生殖医療について訴えても選挙での票にはつながりにくいため、政治家の動きが鈍くなっています。また生殖医療の内容が複雑であり、政治家にとって理解しがたいところがあり、必要性が認識されないのかもしれません。不妊治療にかかわる時期が限られており、当事者が入れ替わってしまうことも無関係ではないかもしれません。また、被害者が子どもであることが多く、議論は止まっています。
 例えば、独身女性やレズビアンのカップルが無償で精子を提供するインターネット上の業者を利用した場合、将来的に子どもの親権をめぐるトラブルが起きる可能性があります。子どもが成長してから、父親は誰かと知ろうとした時、提供者の身元がわからないケースも多くなると思います。最近では、精子提供を受ける独身女性もいるだけに、子どもが出自を知る権利についてのルールづくりが急務です。LGBTも含めて家族のかたちが多様化しているだけに、親子のトラブルを防ぐための法律が必要となります。どこまで多様な家族像を認めるのか、親子法を制定することは、国の家族観が問われることになります。

(吉村 やすのり)

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