甲状腺の機能障害

 日本で治療が必要な甲状腺の病気がある人は240万人と推計されています。血液中の甲状腺ホルモン量は、脳の視床下部が制御しています。甲状腺ホルモン量が足りなければ、下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が出て甲状腺の働きを活発にします。逆に、甲状腺ホルモンが多すぎればTSHの分泌量を抑えます。
 甲状腺の働きが下がると甲状腺機能低下症になります。最も多いのが橋本病です。橋本病は自分の体の一部である甲状腺を、異物とみなして攻撃する自己抗体を作り出してしまう病気です。女性の10人に1人にみられます。血中の甲状腺ホルモンが減り、新陳代謝が落ちて、暑いはずなのに寒く感じるなどの症状が出ます。他の症状は、だるさやむくみ、便秘といった、いわゆるなんとなく調子が悪いという不定愁訴が多くなります。更年期障害や認知症、うつ病などの別の病気に間違われることもあります。橋本病かどうかは、血液検査で自己抗体があるかどうか調べたり、甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの量を調べたりすれば、すぐに診断がつきます。治療は、足りない甲状腺ホルモン剤を11回飲むだけですみ、副作用はほとんどありません。一方、甲状腺機能亢進症の代表がバセドウ病です。新陳代謝が活発になりすぎるため、疲れやすさや動悸、イライラ、不眠などの症状が表れます。心臓病や更年期障害と間違えられることもあります。
 甲状腺ホルモンの異常は妊娠や胎児の発育に関わることが分かってきています。甲状腺刺激ホルモンが高くても低くても流産する率が高くなります。妊娠初期の母親の甲状腺ホルモン値が異常値を示すと、そうでない場合に比べ、子の6~8歳時の知能指数が低く、脳の灰白質の容量が小さいという研究もあります。

(2016年5月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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