異種移植への道

異種移植の研究は、1960年代に入り、本格的に始まりました。チンパンジー、ヒヒに始まり、たどり着いたのがブタです。ブタとヒトは臓器の構造や機能が近いとされています。食用として日々、十分な数が飼育され、1頭から複数の子どもが生まれ、成長も早いのが利点です。家畜としての歴史が長く、感染症のリスクも予測しやすくなっています。
課題は拒絶反応です。ヒト同士の拒絶反応は薬で抑えられても、ブタとヒトは近い種ではありません。それを打開したのが、ゲノム編集などの遺伝子改変技術です。メリーランド大学の移植で使われたブタは、4つの遺伝子機能を失わせ、ヒトの6つの遺伝子を加えています。異種移植の研究は欧米で盛んです。心臓だけでなく、腎臓や膵島の移植も研究が進んでいます。糖尿病治療のための、ブタの膵島移植を計画する動きもあります。神戸大学では、膵島の異種移植を目指しています。
移植直後の超急性期の拒絶反応は乗り切ることができても、数カ月以上経った時に慢性的な拒絶反応をどう乗り切るかなど、検証すべき課題は多いとされています。救命のために、動物の臓器をヒトに移植することは妥当なのかといった倫理面の課題も残ります。臓器提供者(ドナー)の不足が世界的な課題とされる中、動物からヒトへの異種移植についての検証が必要となっています。

 

(2022年9月4日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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