病気治療や創薬のための糖鎖分析

2020年に名古屋大学と岐阜大学の運営を一体化するために設立された東海国立大学機構などが、2023年度からの10年間で321億円をかけて糖鎖を網羅的に分析し、データベースを作るプロジェクトを始動します。糖鎖は、ブドウ糖や果糖といった糖が鎖のようにつながった分子です。遺伝情報が入ったDNAなどのゲノム、アミノ酸がつながるたんぱく質と並び、第3の生命鎖とも言われます。構造が複雑かつ多様で分析が難しく、ゲノムやたんぱく質と比べ国際的にも研究が進んでいません。
糖鎖の部品になる糖は約20種類あり、ゲノムやたんぱく質と違って枝分かれもあります。糖の組み合わせに加え、鎖の長さや枝分かれもパターンの数は膨大です。糖鎖が特徴付ける人の体質の身近な例はABO式血液型です。血液に含まれる赤血球表面にある糖鎖の違いで、A型、B型などが決まります。糖鎖はインフルエンザ治療薬のタミフルやリレンザにも関係します。インフルエンザのウイルスは細胞の中で増殖した後、細胞膜にある糖鎖を分解して脱出し、他の細胞へと感染を広げます。タミフルやリレンザは糖鎖の分解を邪魔し、ウイルスの増殖を抑えます。
プロジェクトは、人の血液などの糖鎖を網羅的に分析し、データベースを作ることを第一の目標に掲げています。病気と糖鎖の関係の解明も目指します。最初の5年間は、血液以外の臓器にも分析を広げ、がんや糖尿病などの研究も進めることにしています。

(2023年5月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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