薬剤耐性菌の猛威

 結核やマラリア、エボラ出血熱などに加え、多くの抗生物質が効かなくなった耐性菌の蔓延が、国際社会の脅威となっています。世界保健機関は、国際社会が優先して研究開発に取り組むべき薬剤耐性菌のリストを公表しています。12種類の菌による感染症に抗菌剤が効かなくなりつつあり、治療の選択肢が急速に狭まってきています。英国の研究チームの推計によれば、2050年までに多剤耐性菌による死者数は、年間1,000万人に達し、現在のがんによる年間死者数を上回るとしています。世界経済の損失は100兆ドル以上に達します。
 抗菌剤を開発してもすぐに耐性菌が出現し、いたちごっこになっています。多くの製薬企業は、開発費がかかるかわりに収益が上がらないため、新たな抗菌剤の開発から手を引いています。そのため、多剤耐性菌による死者が急増すると予想されています。多剤耐性菌に対する抗菌剤を開発する十分な施設がなく、研究者も不足しています。免疫学者や微生物学者だけでなく、工学系や数理学者など異分野の研究者が連携して、多剤耐性菌などに効果がある革新的な創薬を目指すことが大切です。

 

(2017年4月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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