認知症の増加に伴う財産の凍結

高齢者の財産の凍結が社会的課題となっているのは、認知症の人が急増しているからです。認知症高齢者が保有する資産額は、2020年時点で金融資産が約175兆円、不動産(住宅と土地)が約80兆円、資産総額は約255兆円にも達します。これは全家計が保有する資産の約8%にあたります。さらに2040年には、この資産総額は約349兆円に増え、全家計保有額の約12%を占めるようになるとされています。
認知症が進んで判断能力が低下すると、民法が言う意思能力がないとみなされ、預貯金引き出し、不動産売却といった法律行為ができなくなります。これが凍結です。認知症に限らず、他の病気や事故で判断能力が低下しても同じことが起きます。
いったん財産が凍結されてしまうと、原則として、成年後見制度の利用を家庭裁判所に申し立て、選ばれた後見人に代理で取引してもらう以外の対応は難しくなります。医療費など本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、銀行は依頼に応じることが考えられます。しかし、極めて限定的な対応とされ、成年後見制度の利用を求めることが基本です。
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、任意後見人になってもらう人を自ら選び、財産管理など代わりにしてもらいたいことを契約で決めておく仕組みです。判断能力が低下して、家庭裁判所で任意後見監督人(第三者の法律家など)が選任されると、契約の効力が生じます。

(2022年7月24日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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