高齢者雇用の促進

高齢化が進む中で社会保障の持続可能性を高めるには、給付の削減や負担の増加だけではなく、負担の担い手を増やすことが重要になってきています。中でも高齢者就業率の引き上げはかなりの威力を発揮します。社会保障給付の受け手が、負担の担い手になれば、社会保障にかかる高齢化の圧力もかなり減ることになります。
男性の就業率は50歳代では90.2%ですが、60歳代前半に75.5%、後半に52.5%に低下します。これに対して、健康面だけに注目した潜在的就業率は、60歳代前半で87.8%、後半で86.2%までの低下にとどまっています。50歳代から60歳代にかけての健康悪化は総じて限定的です。その結果、60歳代の就業率は、前半には12.4ポイント、後半には33.7ポイント引き上げる余地があります。女性の場合、健康悪化のペースは男性と差がありませんが、潜在的就業率の低下ペースはやや大きめとなります。ライフスタイルが、男性より多様な分だけ就業が健康に左右されやすくなっています。60歳代の就業率を引き上げる余地は、前半には10.5ポイント、後半には22.1ポイントと男性よりやや小さくなっています。つまり、60歳代後半の男性で3割以上、女性で2割以上の人たちが、健康であるにもかかわらず就労していないと推計されます。
もっとも直接的な解決策は年金支給開始年齢の引き上げです。2001年に始まった年金支給開始年齢の段階的引き上げが、定年延長の流れや景気回復と相まって、60歳代前半の就業継続を促してきたことを反映しています。わが国の高齢化の状況を考えれば、年金支給年齢を一律に引き上げ、それにより増加する保険料収入や税収を給付額の引き上げに活用するのが正攻法だと思われます。
総務省の労働力調査によれば、2017年には60歳代後半の雇用者のうち約75%が非正規雇用であり、過去15年間の同年齢層の雇用増全体のうち、実に約82%が非正規雇用の増加です。定年後の再雇用が中心だと思われますが、高齢になれば企業に拘束されないで、健康に無理が生じない形で、多様な生き方の中で就業を位置づけるというライフスタイルの選択があって良いと思われます。これまで習得した技能や知識、経験を生かして、企業から業務を請け負って報酬を得るといったタイプの多様で主体的な働き方が高齢者就業をけん引すると思われます。

(2018年10月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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