ES細胞とiPS細胞

 人間の体は37兆個の細胞でできています。こんなにたくさんの細胞も、もとをたどるとたった1つです。それが受精卵です。精子と卵子が結合してできた受精卵は、その後分裂して細胞が増え続けます。さらに増えて、体の様々な部分を作っていきます。それらが手や足、目、内臓などに分化し、胎児になります。しかし、一度骨や髪の毛、筋肉などの細胞になると、もう別の細胞に変化することはできなくなり、骨の細胞は骨にしかなれません。
 受精卵を使えば、いろいろなものになれる細胞を作ることができます。受精卵の将来胎児になる部分である内細胞塊から、ES細胞を作ります。しかし、受精卵は母親の子宮に戻せば赤ちゃんに育つため、それを壊すことには倫理的な問題があることが指摘されています。ES細胞と同じくように様々な細胞に分化することができるのが、iPS細胞です。遺伝子をまず特殊なウイルスに組み込み、このウイルスが皮膚などの細胞にくっつくと、遺伝子が細胞の中に組み込まれて受精卵のような状態に戻り、iPS細胞に変化します。
 iPS細胞を用いて様々な細胞に分化させ、医療に応用するのが再生医療です。筋肉や神経、内臓、骨などを作り出して患者に移植して治療します。失明のおそれがある目の難病の人に、目の細胞をシート状に加工してものを移植する試みがなされています。このiPS細胞は新しい薬を開発する時にも役立ちます。

(2016年8月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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