iPS細胞の実用化への道

様々な細胞になれるiPS細胞から、病気やケガで失われた細胞や組織をつくりだし、患者に移植する再生医療が、少しずつ実用化に近づいています。理化学研究所などのチームが、iPS細胞からつくった網膜の組織を目の難病である加齢黄斑変性の患者に世界で初めて移植した手術から5年余りが経過しました。移植するまでは定期的な注射で視力を維持していましたが、移植後は注射なしで視力を維持できています。
2018年には京都大学のチームが神経細胞をつくり、パーキンソン病の患者の脳に移植しました。2019年には大阪大学のチームが目の角膜の細胞をつくって角膜上皮幹細胞疲弊症の患者に、2020年にも大阪大学のチームが心臓の筋肉の細胞を、虚血性心疾患の心不全患者に移植しました。京都大学のチームは、血小板をつくり、通常の輸血では拒絶反応を起こしてしまう再生不良性貧血の患者1人に移植しています。
今後も、さまざまな移植の計画が控えています。慶應義塾大学のチームによる脊髄損傷、京都大学のチームによるひざ関節軟骨損傷の臨床研究の計画も、すでに国から了承されており、早ければ2020年中に移植が始まる可能性もあります。今のところ、細胞のがん化や、大きな副作用などの問題は報告されていません。今後は、治療の有効性を確かめる段階に入っていきます。
医薬品には均一な品質が求められますが、iPS細胞は遺伝子の変異が起きることがあります。こうした安全性の評価には費用もかさみます。現状では、大学などの研究機関がiPS細胞をつくって、目的の細胞に変えて移植するまでに、数千万円かかります。実用化にたどり着いても、治療費が高額になることも予想されます。製薬企業やベンチャー企業もさまざまな再生医療に取り組んでいますが、いずれも当初挙げていた目標時期は過ぎており、スケジュールを修正しています。

(2020年4月2日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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