ゲノム編集治療後の女児の死亡

 中国で遺伝子治療を受けた6歳女児が死亡する事故が起きました。スナイデルス・ブロック・カンポー症候群の女児に、アデノ随伴ウイルスベクターというウイルスの性質を利用した運び手に遺伝子の一部や改変に必要な酵素を包み、脊髄液に数兆個を注入しました。しかし、投与から7日後、重篤な免疫反応が起きて女児は死亡しました。

 スナイデルス・ブロック・カンポー症候群と呼ばれる遺伝性の神経疾患は、脳の発達に重要な遺伝子であるCHD3の変異により生じるとされています。知的障害や言語障害があり、世界で約200人と非常に稀な疾患です。中国の研究チームは、世界で初めて脳内で神経細胞の遺伝子を書き換えることで症状の改善を狙いました。遺伝子治療の中でも最先端のゲノム編集治療と呼ばれる手法を試みています。

 遺伝子治療は遺伝子を体内に導入し、疾患に関係するたんぱく質などの働きを抑えるなどして症状を改善します。遺伝治療の中でも最先端のゲノム編集治療は細胞内の遺伝子の一部を書き換えます。疾患に関係する遺伝子の情報を直接書き換えるため、1度の治療で長期的な効果を期待できます。しかし、ゲノム編集治療では意図しない遺伝情報を書き換えるリスクがあり、安全性の確保が課題となっています。

 中国の研究チームが採用したアデノ随伴ウイルスベクターによるゲノム編集治療は、これまでも死亡例が確認されています。米国では、2022年に筋肉が衰える希少疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療の臨床試験で死亡事故が起きています。アデノ随伴ウイルスベクターを高用量で投与し免疫反応などが生じました。中国での死亡事故はゲノム編集治療の今後に影響を与えかねません。

(2026年8月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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