わが国の名目賃金の伸び悩み

働く人が労働の対価として受け取る賃金の動きは、生活の豊かさや物価動向を示す重要な経済指標です。厚生労働省の毎勤統計のデータは、働く人1人あたりの月給がベースとなっており、パート労働者の増加など働き方の多様化が賃金指数を押し下げるという問題があります。米国の雇用統計は、1人あたりではなく時間あたりの賃金が指標となっています。政策効果を正しく検証する場合は、時間あたり賃金が適切です。

日本は低成長が続き、賃金も伸び悩んできました。賃金は時間あたりなら直近10年間で12%増えています。雇用形態の多様化や働き方改革で、年間の労働時間が7%減ったのが大きく作用しています。一人あたりの賃金は、10年間で4%しか伸びていません。
OECDによれば、日本の労働生産性の2013~2021年の変化率は、1人あたりでみるとマイナス0.2%で先進7カ国で最下位です。時間あたりならプラス0.8%と4位に浮上します。付加価値の増加を伴わない守りの生産性向上です。時間短縮は限界があり、持続可能ではありません。
徹底的な自動化などによる生産性の向上にとどまらず、付加価値の高い製品やサービスの創出、市場開拓によって賃金の総額を拡大し、消費と生産が両輪で増えていく好循環を築いていく必要があります。

 

(2023年3月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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