わが国の少子化の現状とその対策―Ⅲ

出生数の維持のためには
 わが国の出生数の減少を考える時、今後は親になる可能性のある女性の数が減るため、出生率上昇だけでは出生数の改善にはつながるとは思えません。出生数を維持あるいは増やすには、女性人口の減少による負の効果を打ち消すほどの大胆な少子化対策を政策として実施する必要があります。
 最初に必要な政策は待機児童解消です。厚生労働省によると、認可保育所の待機児童は約23千人とされています。さらに潜在待機児童は約49千人であり、これを合わせると待機児童数は72千人にも及びます。待機児童が多いのは都市部ですが、都市部では保育士不足が保育所定員拡大の足かせになっています。72千人分の保育所定員を確保するには、約13千人の保育士を新たに確保する必要がありますが、現時点でも保育士不足は深刻です。しかし、保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない潜在保育士も70万人以上存在します。こうした人材を利用できない理由は、保育士の賃金の低さや労働条件にあります。保育士の求人倍率の特に高い東京都では、保育士の賃金は全業種の60%にすぎず、相対的な低さが際立っています。都市部では保育士確保は小手先の政策では効果は望めず、大幅な賃金引き上げなどが不可欠です。しかし、保育士の賃金の大半は税財源に依存しているだけに、最終的には財源確保が必要となります。
 もう一つは、子育て世帯の教育費の問題です。以前の終身雇用・生活給を軸とする日本型雇用モデルは衰退し、今や非正規労働者の比率は3分の1を上回ります。日本の奨学金制度は、優秀な人材を支援する育英事業の性格が強く、質量ともに先進国の中で最低クラスです。早急に給付型奨学金や所得連動返還型奨学金を充実すべきですが、これにも財源の確保が欠かせません。少子化対策の効果はすぐに出ません。一番大事なのは、政府が長期の構想を持って政策を進めることです。少子化対策には財源が必要となります。

(吉村 やすのり)

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