わが国の少子化の現状とその対策―Ⅳ

少子化の克服
 1980年代において欧米諸国では、現在のわが国と同様少子化に悩んでいました。米国やスウェーデンを含む先進各国も、人口置換水準を下回る出生率低下がみられていました。この時期には失業率が大幅に増加し、男性のみの稼ぎ手では、家族を養うことができなくなり、家族形成の困難が生じました。しかしその後、各国の出生率の動向は2つに分かれました。米国とスウェーデンでは出生率が回復しましたが、日本、ドイツ、イタリアでは回復せず、極端な低出生率の段階に突入しました。この分岐を説明する要素の一つが共働き社会化です。米国やスウェーデンでは、不安定化する男性の雇用を女性の雇用が補完することでカップル形成が促されました。しかし、わが国では男性稼ぎ手モデルが存続しました。
 日本でも女性の労働力参加率は、1970年代後半以降恒常的に上昇しています。しかしこれは、働き続ける独身女性の増加と有配偶女性のパート労働市場への参加によるものです。女性が長期的に雇用され、安定した所得が継続的に得られた結果ではありません。少子化を克服した国は、いずれも女性の雇用継続が可能で、男女の賃金格差も小さくなっています。これらの国では、結婚・出産に伴う就業継続の困難を引き下げることにより、これまでは世帯形成にとってマイナスと考えられてきた女性の稼得能力のプラス効果を引き出しています。女性にとっては、結婚すると仕事を続けにくくなるから結婚しないという状態が、自分も稼ぎ続けるからこそ結婚も出産もできるという状態にシフトしています。男性にしても、結婚したら家庭に入る女性を探すのではなく、むしろ不確実な社会で生き残るために、稼ぐ能力のある女性を探すようになっています。女性の就業率と合計特殊出生率の間には正の関係が見られます。

(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。