わが国の少子化の現状とその対策―Ⅴ

両立支援のためには
 少子化対策と言えば、女性の両立支援の推進ということがよく聞かれます。それには前提として、女性の就業による収入が、家族形成にとってどのようなプラスの効果をもたらすのかを考えなければなりません。保育サービスは効率化が難しく、保育コストは技術革新によって下げることはできません。保育コストの問題点は、国によって大きく異なります。米国は保育サービスへの公的支出はありませんが、女性は早々に職場復帰し、カップルは共働きで得た収入でナニーやベビーシッターを雇い入れています。大量の移民労働者がケアワーカーとして雇用されているためです。共働きホワイトカラー層と、移民労働者の賃金格差のために、保育コストが比較的安価に抑えられることが可能となっています。国内外の賃金格差が大きい場合、保育サービスを市場から調達するという選択肢が現実的になります。しかし、この方法をわが国で現在取り入れることは困難です。
 一方、北欧諸国は、保育コストを育児期の公的支援で乗り切っています。保育サービスを公的に提供することで、ケア労働者の賃金を市場賃金と連動させつつ、家計の保育料負担を軽減しています。多くの女性が公的に雇用されているので、保育サービスに従事する女性の賃金が確保され、離職も避けることができています。わが国においては、米国のように国内外の賃金格差が十分に大きい、あるいは北欧のように公的セクターのサイズが十分に大きいといった条件が、備わっていません。この状況では、育児サービスの拡充も両立支援制度の充実もなかなか進みません。
 それではわが国はどうすれば良いのでしょうか?わが国においては、保育料の公的支援は実施されているが、保育士の公的雇用はなされていません。保育労働者を確保し、離職を避けるためには、公的雇用の拡充も考えていかなければならないでしょう。また、女性の継続雇用を阻害しているのは、貧弱な保育サービスに加えて、活躍しようとしている女性に対し、妻のいる男性と同様の働き方を要求することです。出生率を回復させたフランスでは、女性の社会進出は、男性の働き方改革とセットで進められました。喫緊の課題は長時間労働の是正です。

(吉村 やすのり)

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