アルツハイマー病の新薬の実用化

世界の推定患者数が3千万人にのぼるアルツハイマー型認知症の進行を抑える世界初の治療薬が米国で実用化されことになりました。米食品医薬品局(FDA)が米バイオジェンとエーザイの新薬であるアデュカヌマブを承認しました。
アルツハイマー病は、これまで一部の症状を緩和する治療薬しかありませんでしたが、アデュカヌマブでは進行を抑える効果が期待でき、新たな治療薬開発が加速するかもしれません。アルツハイマー病は、世界に5千万人いると推定される認知症患者のうち、6割を占める中心的な病気です。進行性の脳疾患で、記憶や思考能力が徐々に低下し、最終的には日常生活が困難になります。患者の脳内にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が蓄積し、徐々に神経細胞が壊れ、脳の萎縮が起こることが分かっています。

アデュカヌマブは、人間の免疫のもとになるたんぱく質である抗体を使う抗体医薬の一種です。アデュカヌマブを投与すると、アミロイドの塊に抗体が結合します。抗体が結合した塊は、人間に備わる免疫システムによって異物と判断され、免疫細胞によって排除されます。

一般的な抗がん剤に使われる抗体医薬の場合、投与量は体重1㎏あたり3~5㎎程度ですが、アデュカヌマブは同10㎎と2倍以上です。実際に月1回の頻度で、点滴で患者に投与します。アミロイドの塊を狙う、投与量を増やすといった手法は、今後の治療薬開発の指針となります。
注目すべきなのは値段です。バイオジェンは1人あたりの年間治療費が5万6千ドル(約610万円)になると公表しています。米国は民間保険が主流で、高額医療を実際に受けられるかどうかは加入する保険会社が判断することになります。国内でも承認された場合、医療財政を圧迫する大きな要因になるのは必至です。

(2021年6月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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