男性の育休取得に憶う

コロナ禍で世界的に出生数の減少が加速化しています。出生率の低下は、将来の労働力の減少を引き起こし、中長期的の経済力を押し下げてしまいます。そのため世界各国・地域が、少子化対策や育児支援を強化しています。わが国も育児・介護休業法を改正し、男性が育児休業を取りやすくするための法整備をしています。企業には育休の意向の確認を義務づけ、出生後8週以内に最長4週間取れる男性産休も創設しています。子育てに主体的にかかわる男性が増えれば、女性に負担が偏る現状が変わる可能性が出てきます。
育休を取りたいのに取れない男性は多く、厚生労働省の調査によれば、勤務先で育児に関する制度を利用しようとした男性の4人に1人が、パタニティーハラスメント(パタハラ)と呼ばれる嫌がらせを受けたことがあると答えています。上司による妨害行為が多く、経験者の43%が育休取得を諦めています。
法制度だけみれば、もともと日本は、世界でも男性の育休が充実している国です。国連児童基金(ユニセフ)の報告によれば、収入の保障付きで休める長さは、OECD加盟国など41カ国中1位です。それなのに取得率は2019年度時点で7.48%にとどまっています。背景にあるのは、男性は仕事、女性は家庭との根強い性別役割分担の意識です。男が育休なんてという雰囲気が残る企業は多いと思われます。
現状の男性の育休は、7割が2週間未満なのに対し、女性は9割が6カ月以上となっています。これまで女性の取得は1回に限られ、長期間休む例が多くなります。法改正で、男女とも育休を2回に分割して取れるようにもなりました。繫忙期に妻が子育てを夫に任せて復職した後、夫とバトンタッチし再び育休に入る、という運用が可能になります。女性の職場復帰を円滑にすることにより、女性活躍の場が広がります。
男性が、柔軟に望む期間の育休を取れるようにするためには、男性の子育てをごく当たり前に受け止める職場環境が必要です。子育て中の男性を部下に持つ上司の覚悟が問われています。少子化に対抗するには、育児休暇を取りやすくするなど、今回の法改正のような子育て環境の支援に加えて、出産や結婚を躊躇させるような経済不安を和らげる政策も必要です。

 

(2021年6月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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