コロナを巡る反ワクチン運動

新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発は急ピッチで進んでいます。しかし、アメリカCNNによれば、新型コロナウイルスのワクチンが完成しても3人に1人が接種を望まないとの世論調査結果が出ています。コロナを予防するワクチンが低コストで幅広く利用可能になった時でも、接種しないとの回答が33%に上っています。年代別では35~49歳が45%と高く、トランプ大統領の支持者、与党・共和党の支持者もそれぞれ47%がワクチンを試さないと答えています。
健康な人に打つワクチンは、軽微なものを含めれば副作用を完全に抑えることは困難です。これまで、様々なワクチン接種事業において、後に副作用が出て事業が中止になったことは何度となくみられます。ワクチンの安全性や有効性の検証には十分な時間をかけるべきです。反ワクチンを唱える集団は少数派であっても、中立的な意見を持つ集団に巧妙に働きかけ、ワクチン賛成派よりも強い影響力を持っています。マスコミの反ワクチン運動を擁護する報道も問題です。今回の新型コロナウイルス感染症においては、集団免疫の獲得が難しいとの結果も出ています。ワクチンによる集団免疫効果がみられなければ、感染を完全に防止することはできません。
反ワクチン運動自体は、歴史を遡れば天然痘などの感染病を巡って19世紀から存在し、目新しいものではありません。最近ではHPVワクチン接種にみられる副反応訴訟でも明らかです。反ワクチン運動は、公衆衛生当局にとって難しい問題になります。リスクと利益を明確にし、科学的エビデンスに基づいた丁寧な説明が必要になります。国民にワクチン接種を促す場合には、政治のリーダーシップが試されます。コロナ禍における拙速なワクチン接種は避けるべきです。

(2020年8月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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