コロナ禍で露呈したに日本医療の脆弱性

新型コロナウイルス禍は、日本医療の脆弱さを浮き彫りにしました。欧米各国より感染者や死者数が少なかったのにもかかわらず、医療体制はすぐに逼迫してしまいました。多すぎる病床を持て余し、遠隔診療などの医療効率化に目を背けてきた結果です。OECDによれば、人口1千人当たりの病床数は、米国や英国の2.5床、フランスの3.0床などと比べて、日本は7.8床とずぬけて多くなっています。人口千人当たりの医師数も各国と比べてそれほど少なくないのに、1床当たりの医師数は手薄になり、柔軟に対応できませんでした。

日本は、診療科ごとの縦割り専門医育成に力を入れ、新型コロナなど幅広い患者に対応できる総合診療医らを十分に育ててきませんでした。コロナ病床の提供を拒む病院は、人手が確保できないことを訴えてきました。医療費に年間16兆円超の公費を投じているのに、医師も病床も有効活用できず、医療逼迫と度重なる緊急事態宣言を招きました。医療界には、供給が需要を生むという歪な構図があります。病床が多い都道府県ほど医療費が高くなりがちです。多くの病床を用意し、入院の必要性が高くない患者を入院させて、診療報酬を得るといった病院経営優先の姿勢が伺えます。
全国約8千病院の8割は民間で、国や自治体は経営に介入できません。近隣病院が同じ診療科を掲げる無駄も散見されます。開業医らの協力も十分とは言えません。その典型がオンライン診療で、コロナ禍の前後でオンラインなど非対面診療の割合を比べたところ、コロナ後も非対面は1.5%だけでした。かかりつけ医を制度化している英国は、非対面の割合が対面とほぼ同じ48%に高まっています。

医療資源を生かせない非効率を温存し、医療財政は危機的状況です。国全体の医療費は、2000年度の30兆円から約43兆円に膨らんでいます。75歳以上の後期高齢者の医療費が増加し続けています。日本は、社会保障支出の割に国民負担は少ない中福祉・低負担国家です。改革先送りは将来世代にツケを回すことになります。

(2021年10月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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