シニア層の人事制度の見直し

厚生労働省の2023年調査によれば、65歳以上へ定年を引き上げた企業は全体の26.9%、定年制を廃止したのは3.9%にとどまっています。既に2021年4月から70歳までの就業機会の確保が努力義務となっていますが、制度として定年を延長する企業はまだ主流になっていません。総務省統計によれば、2022年の65歳以上の就業者数は912万人で、全就業者の約7人に1人です。65~69歳の就業率は50.8%、70~74歳は33.5%と上昇しています。
労働政策研究・研修機構の60代の雇用・生活調査によれば、60~64歳男性のうち、会社、団体などに雇われてが最多で70.7%を占めています。雇用形態は非正規雇用が58.1%で、正社員の37.1%の1.6倍です。パーソル総合研究所のシニア従業員への調査によれば、定年後再雇用の人々の年収は定年前と比べ、平均して44.3%低下しています。しかし8割強が定年前とほぼ同じ職務についています。
社会の中枢に位置する男性は、多くが出世競争に勝たなければならない、高収入を得て、社会的評価を得るべきだといった旧来の男らしさのジェンダー規範に囚われています。その結果、年収や待遇の低下は、モチベーション低下に直結します。定年前に部長など上位の役職を経験した人ほど不満を募らせ、働く意欲を喪失する傾向が強くなっています。シニア層の意欲低下には、こうした人生やアイデンティティーに不安や葛藤を抱く中年の危機(ミッドライフ・クライシス)が長引き、定年を境に、抑うつ症状などの心理的危機の新たな波が押し寄せるケースが増えています。
この主因として挙げられるのが、定年後のシニア社員に対する人事制度にあります。定年に達すると、機械的に以前適用されていた職務や役割、能力によってランク分けする等級制度からは対象外となります。多くが定年前後でほぼ同じ業務に就いているにも関わらず、期待される役割や責任が明確に示されず、報酬も激減します。
定年後の中高年男性は、ジェンダー意識の改革が必要です。ポジションや評価に固執する男らしさ規範の呪縛から抜け出すべきです。外発的に動機付けられた労働から、働くことに対して抱く意味、価値観を転換することも大切です。シニア社員のやる気を引き出す人事制度改革も必要です。定年後再雇用で働くシニア社員を対象とした等級制度を設け、等級に応じた人事評価を行い、待遇を決定します。査定によって給与のアップもダウンもある仕組みです。
定年後再雇用で働くシニア社員のモチベーションを高めて有効活用することは、近い将来定年を控えたポストシニア層や、ロールモデル不在で戸惑う定年女性の意欲向上にもつながります。

(2024年1月31日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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