ミトコンドリアヘテロプラスミー

 細胞内の小器官ミトコンドリアの遺伝子異常で起きる病気を避けるため、米国の不妊クリニックにおいて、核移植と呼ぶ生殖技術を使用し、子どもが誕生しました。母親はミトコンドリア遺伝子の異常で起きるリー脳症という先天性疾患を持っており、これまで4回流産を経験し、出産した2人の子は産まれて間もなく死亡しています。方法は、別の正常な女性から提供された卵子の核を抜き、その卵細胞に母親の卵子から取り出した核を移植します。得られた卵子に父親の精子を受精させ、母親の子宮に戻して子どもが誕生しました。
 ヒトは核の遺伝子を両親から、ミトコンドリアの遺伝子を母親から受け継いでいます。今回生まれた赤ちゃんは、核の遺伝子は両親から、ミトコンドリアの遺伝子は別の女性から受け継いでいます。両親の核由来の遺伝子と、卵子を提供してくれた女性のミトコンドリア遺伝子との3人の遺伝子を受け継ぐことになります。ヒトの卵子の核を核移植で入れ替えると、異常のあるミトコンドリアがわずかに持ち込まれ、さらに増えてしまう可能性があります。核を取り出す時に異常がある母親のミトコンドリアを同時に移植することになるため、厳密に言えば、2人のミトコンドリア遺伝子が一緒に存在することになります。これをミトコンドリアヘテロプラスミーと言います。
 現在のところ、ミトコンドリアヘテロプラスミーが生まれた子どもの成長にどのような影響を与えるかは不明です。これら核移植の技術は卵子の若返りにも利用することができます。わが国においてもミトコンドリア病の子どもを持つ可能性のあるクライエントがおり、これまでは着床前遺伝子診断が実施されてきています。以前、老化卵子の核を若い卵子の細胞質内に移植する治療法が、米国で実施されたことがありましたが、現在はFDAにおいて許可されていません。長期的なフォローを前提に、ミトコンドリア病の新しい治療の選択肢の一つとして臨床研究が実施されることが期待されます。

(吉村 やすのり)

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