ワクチン勧奨再開の報道の意義

 HPVワクチンについては、副反応の問題はテレビや新聞でいろいろな特集が組まれていますが、これまでワクチンの意義やその有用性については全く取り上げられません。日本産科婦人科学会をはじめとする医学界から、ワクチン勧奨再開についての要望やメッセージが何度も国や社会に対して出されていることを国民は知りません。もちろん、情報提供者側にも問題がありますが、報道する送り側のリテラシーに違和感を抱きます。子宮頸がん発症を予防するためのHPVワクチンの必要性についての科学的エビデンスを示す報道は全くみられません。事態が見えない時に警報を流すのはマスコミの役割です。
 欧米諸国において、HPVワクチンの有用性のエビデンスが矢継ぎ早に報告されるようになってきています。マスコミは子宮頸がんの専門家の意見を聴いても、最新の学術報告を取り上げることもありません。国際的に明らかな有用性が指摘されるようになっても、HPVワクチンによる副作用の偏見を持ち続けている国民だけが悪いわけではありません。その偏見を無くすような報道をしていないからです。これはマスコミの責任です。
 WHOは、若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクに晒されたままとなっている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことにつながる現状の政策決定は、真に有害な結果となり得ると警告しています。将来、先進国の中でわが国においてのみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益がこれ以上拡大しないよう、国が一刻も早くHPVワクチンの接種勧奨を再開することが強く求められます。わが国においては、HPVワクチンの効果と安全性に関する行政・医療・教育・研究関係者及びメディア関係者などのリスクコミュニケーションの在り方が問われているといえます。

(吉村 やすのり)

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