人口減を前提とした少子化対策

日本の1.30という出生率は、もはや外国人居住者に依存する以外に、半世紀後に1億人国家を維持する道筋を描きにくくなっています。生殖年齢にある母親世代の人口が減った日本で、出生率が多少上がった程度で出生数は増えません。人口減少を前提とした社会への移行を急ぎつつ、粘り強く少子化対策を続けるしか道は残されていません。
異次元の少子化対策と言うならば、経済合理性という根本原因に鋭く切り込むべきです。まず税制の見直しです。フランスのように、子どもの多い世帯ほど負担が軽くなる所得税制を考えるべきです。第2子、第3子と手厚くなる家族手当、子どもを持たないともったいないと人々が感じるところまで徹底することも必要になります。
日本の児童手当においては、年収960万円の所得制限ラインの根拠は、子ども扶養世帯の上位10%というこので、出産促進効果の観点で精査されたわけではありません。世帯主の収入だけで判断するので、共働きで夫婦の年収が各900万円ある世帯は、満額支給されることになっています。児童手当についても、費用対効果の観点からの検討が必要です。政策の実践にあたっては、出産を促すインセンティブになるかの視点も大切です。
待機児童がほぼ解消され、対策は転換期にあります。家族関係社会支出のうち、保育など現物給付のGDP比は、2020年に1.26%と英仏と遜色のない水準になりました。今後は乳幼児の親の支援に限らず、結婚や出産を阻害するあらゆる要因を排除していくべきです。主要国に見劣りする現金給付も必要になりますが、選択的夫婦別姓をはじめとするリプロダクティブライツの確立なくして、わが国の少子化の危機を突破することはできません。
財源には高齢者を含む親世代全体で支える仕組みが求められます。社会保険料だけでなく、消費税も聖域視せずに検討すべきです。医療など他の社会保障に要する国民負担を抑える視点もいります。人口減時代の世界で輝くことができるのは、新たなモデルを築けた国だけです。

(2023年4月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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