出産費用の地域格差を考える

政府の少子化対策の一つとなる出産費用の保険適用を巡って、地域間の費用格差が課題として浮上しています。厚生労働省の調査によれば、2021年度の出産費用の平均額は東京が56万5,000円、鳥取が35万7,000円で平均は約45万円です。この出産費用の金額は、一部の公的病院の分娩費用であり、多くの妊婦が通院している病院や産科クリニック、大学病院などの分娩費は、少なくとも2~3割は高額になっています。
出産費用の保険適用は、政府が3月末にまとめた少子化対策のたたき台に盛り込んでいます。現行では出産費用は保険がききませんが、適用されれば原則3割負担で済むようになります。政府は2026年度をめどに実施を検討しています。分娩費の保険適用により報酬額を設定すれば、都心部の産科医は収入が減って施設維持など経営に響く可能性があり、逆に東京の水準に寄せると地方の病院ではもらい過ぎとなり、医療費全体も膨らんでしまいます。
自己負担の扱いも焦点になります。地域によっては、自己負担額が一時金を受給した場合の出費額を上回る場合が出てきます。負担が増えれば出産した夫婦にとって保険適用の利点を感じられません。保険適用によって、自己負担が生じない仕組みを作らなければなりません。自己負担分を公費で賄うことも必要になります。医療費がかさむ場合は、自己負担額に上限を設ける高額療養費制度が適用されることになります。年齢と所得水準で上限額は異なりますが、出産費用が同制度の適用対象になれば負担は抑えられます。
公的医療保険制度との整合性も課題となります。医療保険では、病気や怪我をした時は保険で治療を受けることができます。帝王切開や吸引分娩などを除く正常分娩は病気ではないとして、保険の対象外としてきています。出産を保険にするには制度上の位置づけをどう見直すかも議論が必要です。

(2023年4月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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