今、改めて人口問題を考える

人口戦略会議が2014年に全国約半数の市区町村が消滅するかもしれない、いわゆる消滅可能性都市を公表してから、10年が経過しました。これまで政府は、地方創生を掲げ様々な対策に取り組んできましたが、今回公表された分析結果で改めて厳しい現実が突きつけられています。
前回の分析を公表した際、世間の集めたのは過疎地域でした。出生率低下は、都市部も無関係ではないにもかかわらず、都市部の課題としては十分に受けとめられませんでした。政府も、この間地方創生政策を打ち出し、各自治体も定住促進などに力を注いできたため、人口流出を抑えるという社会減対策に重点が置かれ過ぎてしまいました。結果的に自治体間で若年人口の奪い合いとなり、日本全体で人口減を食い止めることはできませんでした。
人口戦略会議は、今回消滅可能性自治体に加えてブラックホール型自治体という新たな言葉を提案しています。人を吸い込んで減らしていく東京を指しています。地方からの人口流入を受けながら、出生率が非常に低い東京など25自治体の存在です。子育てのインフラが不足し、物価が高い東京は、地方より出生率が低い傾向にあります。そこに人口が集まることで、人口減少を加速させているとも指摘されています。
わが国の人口減少を食い止めるキーワードは女性です。地域における女性の流出は少子化を招きます。人口移動がないのに急激に若年女性の人口が減る自治体では、特に出生率の向上が急務です。一方、今回も若年女性の減少率を自治体消滅の指標にしていることは、危うさもはらんでいます。子どもを産むのが自分の役割なのかと若い女性たちは思うかもしれません。人口問題を考える時、経済的合理性以上に大切なのが、個の尊重です。人口の増減は個人の選択の集積であり、その意味で地域の生きやすさを示す指標のようなものです。
人口が減る現実に社会を適合させながら、若い世代を含めた全ての人々が安心して自分の人生を選び取れるように支え合うことが大切です。自治体の消滅を恐れる前に、まず国民一人ひとりの意識改革が必要となります。社会観、家族観、結婚観などの価値観の多様性を認めることが大切です。選択的夫婦別姓や婚外子の存在を認めることなども、少子化対策を考える上での一丁目一番地です。そんな社会を目指した先に、少子化対策の道が開けると思います。

(2024年4月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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