企業におけるウェルビーイングの実現

少子高齢化で生産年齢人口が減る日本では、性差の隔てなく人材の多様性を生かした職場づくりが、企業の経営力の源泉です。特に出産や育児などライフステージの変化の影響を受けやすい女性が、キャリアを後回しにせず働ける環境整備が急務です。カギを握るのが男性の働き方改革です。企業は男性の育児休業取得促進に工夫をこらしています。
男性正社員1千人当たりの取得者数は、2021年度に2017年度比4.7倍の15.9人に増えています。2021年度では、配偶者またはパートナーが出産した人のうち、育休を取得した割合は30.7%で、1週間未満、1週間~1カ月未満、1カ月以上がそれぞれ1割ずつと、長期取得は決して少数派ではなくなってきています。

企業が取り組みを加速する背景には、2022年4月以降段階的に施行された改正育児・介護休業法があります。子の出生後8週間以内に、4週間まで育休を分割取得できる父親専用の制度を新設しました。2023年4月には従業員数1千人以上の事業者に、男性育休取得率の開示も義務付けられます。企業は先進的な取り組みをアピールし、人材確保につなげています。
管理職への女性の登用も徐々に進んでいます。2022年調査では女性管理職の平均比率が、前回調査より0.9ポイント多い7.7%でした。女性取締役がゼロの企業は20.5%と1割減少しています。2人以上は29.7%と1割増えています。しかし女性取締役の9割近くを占めるのは社外取締役で、社内の人材不足は否めません。女性役員比率の向上は、多くの企業にとってなお高いハードルです。女性の家事や育児の負担が多いのは当たり前といったアンコンシャンス・バイアスを取り除く研修や、早期の幹部候補の育成などが急務です。
リモートワークのように場所に縛られない働き方が広がる中、企業がウェルビーイング経営に力を入れ始めています。企業が社員の健康改善に力を入れる健康経営にとどまらず、心理的サポートや、働く上での充足感といったエンゲージメント向上を含む、幅広い働き甲斐を高める経営が重要となってきます。2022年のスマートワーク経営調査によれば、社員1人当たりの健康関連費用は2021年度に3万8,520円と、前年度に比べて5.7%増えています。健康経営を社内で大々的に掲げる企業の比率も増えています。エンゲージメントの重要度も高まっており、コミュニケーションや職場内の心理的安全性の向上を図ることが必要です。

日本で働く全ての人が明確なビジョンを持って生き生きと働けるようになれば、国の生産性は年間22兆3,624億円高まるとされています。働き方に対する考えや価値観が多様になり、社員にやりがいを与えられない企業は、持続的な発展が望めない時代になってきています。働き手一人ひとりに目を向ける経営の重要性が一段と高まっています。

(2022年11月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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