未婚の流れの加速

新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、未婚の流れが加速しています。婚姻数は大幅に減り、2022年の出生数は初めて80万人を割ると予測されています。1960年の婚姻数86万件に対し、2020年は52万件に減少しています。男性の50歳時の未婚率である生涯未婚率は、1.26%から28.3%、女性は1.35%から17.9%に急伸しています。
令和の家族像は、昭和の時代から様変わりしています。結婚した3組にざっと1組が離婚し、50~60代女性の2割弱が離婚経験を持っています。複数の要因が絡み、男女ともに未婚率が上がり続けています。第一に、労働市場の硬直性という構造問題があります。厚生労働省の調査によれば、未婚女性に理想のライフコースを聞くと、仕事と家庭の両立が最多ですが、実際になりそうなコースを問うと、非婚就業が3分の1を占めています。正社員は一般に新卒一括採用からのキャリア蓄積を期待されますが、女性にとって出産適齢の20代から30代前半に重なってしまいます。
第二に、パートナーとの同居が増えません。一人暮らしよりはパートナーが共に暮らすほうが、1人あたり生活費は低くなるため、欧州ではカップルの同居が少なくありません。出生率が高いフランスやスウェーデンでは、20代から30代前半の半数が法律婚か同居をしています。日本はこの割合が3割に過ぎません。結婚するには所得が高くなければという思い込みが男性に強いのも、同居に二の足を踏ませる要因になっています。
第三に、女性にとって結婚のハードルやリスクがあります。典型は改姓です。欧米と違い、日本は名字で呼び合う職場文化を持っています。旧姓の通称使用は広がっていますが限界があります。旧姓は税務で使えないし、海外渡航の航空券やビザも戸籍名です。改姓や二つの名字の使い分けをハードルとして感じる若い女性は多くなっています。離婚してシングルマザーになると生活が苦しくなる現実も、女性が結婚をリスクととらえる一因です。元夫から子どもの養育費を受け取っている母親の割合は、24%に過ぎません。母子世帯の貧困率は、48%と先進国で最高です。離婚した女性の貧困化の防止は、将来の財政にもかかわる重要な問題です。
最新の出生動向基本調査では、いずれ結婚するつもりと回答した未婚者が男女とも減少、結婚したら子を持つべきと考える人も減っています。若者の間で結婚・出産への意欲が低下し、結婚すれば子を持つとも考えにくくなっています。主な原因は所得や雇用環境の悪化です。40代後半の大卒男性正社員の実質年収は、10年上の世代にくらべて今は約150万円少なく、大学進学率は上がっているのに、企業が高度人材を必要とする仕事を生み出せていません。
最近の男性は、結婚する女性に経済力を求め、結婚して子どもを持っても仕事と両立することを望んでいます。経済力のない女性が、結婚や出産を考えにくくなる副作用もあります。ジェンダーギャップが大きいことも未婚化の増大に影響しています。10月から産後パパ育休が始まりましたが、日本では相変わらず家事・育児負担が女性に偏り、職場では責任ある仕事を持たせてもらいにくい状況にあります。変わらない男女格差社会への反発や諦めもあります。
地方では若い女性の流出が止まりません。安定して働ける地域の女性ほど出ていく傾向があります。女性が仕事に求めているのは、専門性や能力が発揮できる環境や待遇です。多くの人が仕事と家庭の両立を望んでいるのに、結婚せず働き続ける人生を予想している現状は好ましくありません。若い世代の所得・雇用環境を改善し、生活の基盤を確保できるかが政治の役割です。法律婚を経た夫婦が同居するのが標準ではなくなってきています。一方でパートナーと生活し子どもを持ちたいという人は少なくありません。政治家、官僚、経営者それぞれにこの希望を叶える責任があります。

(2022年10月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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