凍結保存精子の取り扱い

 大阪府在住の男性は、18歳の時に大阪市立総合病院で骨髄異形成症候群と診断され、治療のために放射線治療を受け、抗がん剤を服用することになりました。副作用で造精機能が障害されることによって、無精子症になる恐れがあったため、両親や医師の勧めで200312月に精子を凍結保存しました。なお、その際の保管費用は無償でした。凍結精子を使用して子どもをつくりたいと考え、今年になって病院を訪れると、すでに廃棄されていたという事件が起きました。病院では不妊治療を担当する医師が異動したため、クライエントに対し別の病院に移管してほしいと頼んだといった経緯がありました。しかし、クライエントから連絡がなかったため、保存の希望がないとのことで廃棄したのであり、病院側に責任はないと主張しています。
 日本産科婦人科学会の精子凍結保存の見解によれば、凍結保存精子は本人からの破棄の意思が表明されるか、あるいは本人が死亡した場合、破棄されるとしています。病院側としては「移管をお願いしていたが返事がなく、管理が行き届かない状況になった。使用に関して医学的には担保できません。」と述べています。しかしながら、あくまで病院側は、クライエントに対し廃棄する前に凍結保存継続の意思を確認する必要があったと思われます。病院側の意向によって凍結保存精子を破棄することはできないことになっています。
 今後、悪性腫瘍の治療成績向上に伴い、精子を凍結保存しておくようなクライエントは増えてくると思われます。病気が治った後、凍結しておく精子を使用することになりますので、数年、長い場合は十年以上保存しておく可能性が出てきます。その際の病院での凍結精子の管理責任は大きなものになります。精子の凍結保存は無償ではなく、有償で行われるべきであり、クライエントも凍結保存の意思を明確にするなど義務を果たすべきです。

(吉村 やすのり)

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