労働移動の動きの鈍さ

労働移動の現状は転職者数などを用いて分析します。新型コロナウイルス禍となった2021年の転職者数は290万人と、2019年に比べ63万人(17.8%)減少しています。常用労働者数に対する転職者の割合を示す転職入職率は、コロナ禍前が10%前後でしたが、2021年は8.7%まで低下しています。
国際的にみても、日本の労働移動は鈍くなっています。新たに失業した人と再就職した人の合計が生産年齢人口に占める割合は、日本が2001年から2019年の平均で0.7%と、OECD平均1.5%の半分程度です。失業プールへの流入出率と呼ばれるこの指標は、労働移動の活発さを推し量る目安のひとつで、日本は低い水準が続いています。日本は失業者が少ないため、この指標は低めに出やすいとされています。
日本は勤続年数が10年以上の雇用者が45.9%と、30%前後の米英などに比べ多く、同じ会社で長く働く傾向があります。労働経済白書によれば、特に役職のある男性が転職などに慎重になっています。係長級の男性は37.7%が転職を希望していますが、実際に転職活動をしている人は13.1%です。課長級も、希望者35.0%に対し活動者が12.2%です。終身雇用を前提とした人事制度では、中途採用者の社内でのキャリアパスが明確でないケースも多く、転職に踏み切っても新しい職場で能力が生かせなかったり、賃金が減ったりするリスクもあります。
労働移動を促す手段の一つが学び直しです。職業能力を自発的に開発する自己啓発をしている人は、男性正社員で2020年度に43.7%と、2012年度の50.7%から減少しています。女性正社員も41.1%から36.7%に減っています。企業が費用面の支援や就業時間の配慮をしている場合、自己啓発をしている社員の割合が高く、企業による支援の重要性を指摘されています。政府は学び直しへの支援を強化しています。

 

(2022年9月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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