労働移動の必要性

仕事に就いていても一定期間休んでいる休業者の数が高止まりしています。2021年度は211万人で、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前を大幅に上回り、完全失業者より多い水準です。国の補助金を背景に、企業が雇用者を抱え込む状況にあり、必要な産業への労働移動を阻んでいます。
総務省の労働力調査によれば、休業者数は2021年度に211万人で、前の年度に比べて51万人減りましたが、コロナの影響がまだ小さかった2019年度比で見ると約30万人多くなっています。2021年度の完全失業者191万人より20万人も多くなっています。業種別で休業者が多いのは、宿泊業・飲食サービス業の25万人、卸売業・小売業の24万人などコロナ感染の拡大に伴う行動制限の影響を強く受けた業種です。少子高齢化による人手不足が続くと予想し、企業は働き手を休ませて雇用を維持しています。
こうした企業の動きを後押ししているのが国からの補助金です。企業が支払う休業手当を支援する雇用調整助成金は、4月下旬までに5兆円超の支給が決まっています。この雇用調整助成金は、不況で生じるべき離職を先送りし、望ましい産業間の労働移動を損ねてしまっています。
雇用維持を続ける企業の一部が積極的な求人を控えており、一方で、求職者数は195万5,923人強増えています。雇用調整助成金による雇用維持が過度に続き、企業が人材の新陳代謝を先送りし続ければ、経済成長に欠かせない労働移動は阻まれてしまいます。

(2022年4月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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