胎児治療の進歩

胎児治療は、出生前診断技術の進歩とともに生まれた比較的新しい治療です。胎児疾患の多くは出生後の適切な内科治療や外科手術によって対応可能であるために、胎児治療の適応疾患は限られています。必要条件として、①疾患の自然歴が明らかなこと、②病態と治療機序が解明されていること、③治療が技術的に可能であること、④安全性が確保できる(特に母体)ことが挙げられます。現行の管理では胎児・新生児の段階で死亡する疾患、もしくは出生後の治療では極めて重大な障害を来す疾患が対象になります。治療法は、4つにわかれます。
先天性心疾患(Congenital Heart Disease;CHD)の1つである重症大動脈弁
狭窄症と診断された妊娠25週の胎児に対して、日本で初めての胎児治療が実
施され、無事に出産に至りました。生産児の1%に該当するCHD患者は、こうした治療技術の進歩により、重篤な心疾患の場合でも、比較的良好な状態で成人期に達することが期待されています。本治療は,母体の腹壁から胎児の左心室に向けて針を刺し,ガイドワイヤーを通した上でバルーンのついたカテーテルを大動脈弁まで進めてバルーンを拡張し弁形成をめざすものです。
これほどまでに胎児治療が進歩してきた背景には、超音波による胎児診断技術の向上があります。以前は生まれてから異常が判明し小児専門病院に救急搬送されることも多かったのですが、現在では8割以上で出生前に診断がつくようになりました。CHD患者は生産児100人に1人の割合で出生するとされ、近年の生産児数が約90~100万人であることを考えると、毎年9000~1万人のCHD患者が出生していると推測されています。
CHDの患者においては、胎児治療でしか助からない命もあることから、長期的な予後の検証が必要になります。胎児治療が長期的な予後に貢献していることが今以上に証明することができれば、さらなる発展も期待できるようになります。

(週刊医学界新聞2022年3月21日号)
(吉村 やすのり)

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