受精卵のゲノム編集

 米科学アカデミーを含めた米英中3カ国の科学者団体は、2015年に妊娠させないことを前提にした基礎研究に限り受精卵や生殖細胞のゲノム編集を容認する声明を発表しました。今回の科学アカデミーの見解は、遺伝子を狙った通りに改変できるゲノム編集の技術を利用して遺伝性疾患の患者の受精卵や生殖細胞の遺伝子異常を修復し、子どもに病気が伝わるのを防ぐ治療を認めるというものです。条件付きながら臨床応用に踏み込んでいます。20年以上の歴史がある遺伝子治療では、安全性や子孫に与える未知の影響、倫理面などを考慮して、次世代に影響を残さない体細胞でのみ臨床応用が認められてきましたが、その一線を超えることになります。
 臨床応用の前には、国民によるコンセンサスが必要とした上で、合理的な治療法がない、病気の原因遺伝子に限る、数世代にわたる長期的な影響の評価、などを条件に挙げています。臨床応用の対象は、原因となる遺伝子異常がはっきりしている病気や障害に限られます。ただ、対象となりうる病気には遺伝性の乳がんなども含まれる可能性もあります。様々な病気や障害の原因となる遺伝子の研究が進めば、対象が拡大する可能性も否定できません。
 日本では受精卵のゲノム編集について、倫理専門調査会が「子宮に戻さないことを条件に、極めて限定的に容認する」とした中間報告をまとめています。しかし、法規制や指針の議論は進まず、日本産科婦人科学会など4学会が共同で倫理審査委員会を運営する案が、現在検討されています。

(2017年2月15日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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