子どもを持つことの幸せ感の醸成

日本の出生率が人口置換水準2.07を下回ってからほぼ半世紀、国際的にも極端に低いとされる1.3近くの水準になってから20年余りが過ぎています。結婚して子どもを持つことに対する人々の姿勢は、この期間に消極的な方向に大きく変化しています。この長期的な変化を政府の金銭的支援策だけで短期的に逆転させることは難しいと思われます。人々が結婚して子どもを持つことを幸福と感じ、子どもを持つことに積極的になる長期的・包括的な対策が必要となります。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によれば、1980年代以降、18~34歳の未婚者では、いずれ結婚するつもりと答えた人の割合が男女とも下がり続け、2021年には男性が81%、女性が84%となっています。未婚化が進み、2020年に20代後半女性の6割超、30代前半女性の3割超が未婚です。また結婚するつもりのある若い未婚女性の平均希望子ども数は、1982年の2.28人から減り続け、2021年には1.79人となっています。
経済学の視点での幸せは、子どもを持つ喜び、物質的豊かさ、余暇時間量の3つで構成されます。人々は自らの嗜好に基づき、最も幸せになれるよう、子どもの数、労働時間量、余暇時間量を決めます。活動可能な時間が有限である以上、3つの要素を同時には増大させられません。労働時間を増やしてより多くの所得を得れば、消費量を増やせますが、余暇時間は減ってしまいます。所得が増えれば子どものための支出を増やせますが、子育てに使える時間が減ってしまいます。そのため、持てる子どもの数には限界があります。
日本男性の家事育児時間が国際的にみても非常に少ないことは、少子化の重要な要因となっています。夫が家事育児にもっと参加できる環境を整えるためには、男女間賃金格差の是正が大切になります。夫婦がともに働きながら子どもを持ち、かつ余暇時間を確保できるようにするためには、労働時間を適正化する政策も必要となります。労働時間の適正化を一層促進し、子どもを持っても働いて物質的に豊かな暮らしを送り、好きな活動ができる余暇時間もあり、幸せだと感じられる社会を構築することが、現役子育て世代にとっても次の若い世代にとっても重要です。
若者が結婚しなくなっていることへの対策として、若者が子どもを持つ喜びを鮮明に想像できるようにし、結婚意欲を高めることが考えられます。出生率の低い水準が続き、赤ちゃんや小さい子どもと触れ合う機会、つまり直接的な情報を得る機会は減っています。若い未婚者が乳幼児に接する機会を増やすことは、子どもを持つ喜びの予想を通じて、結婚意欲にプラスの影響を及ぼすと思われます。こうした機会を増やすには、地域でのかかわりなどを通じた若い未婚者による育児支援も有効となります。
若者が接する現役子育て世代の姿は、幸せでなくては意味がありません。現役世代が余暇時間を持って幸せになるには、労働時間の適正化が欠かせません。人々が今以上に長い自由な時間を持てば、子どもと接して子どもを持つ喜びを知る機会を増やせます。また子どもを持ってその喜びを感じながら働き、余暇時間を持って幸せになれると考える人が増えると思われます。

(2023年3月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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