フェムテックの黎明の意味するもの

女性は月経に限らず、妊娠、更年期障害など、年代やライフステージごとに様々な女性特有の健康課題を抱えています。近年、そのソリューションとして注目されているのがフェムテックです。デンマーク人の女性起業家イダ・ティン氏が、2010年代に自身の開発した月経管理アプリへの投資を募る際、当時男性ばかりだった投資家やメディアの注目を集めるために、新たな市場を表す言葉として提唱したと言われています。経産省はこのフェムテックによる経済効果を2025年時点で年間2兆円とも推計しています。
期待を寄せる背景には、女性活躍について世界における日本の地位が極めて低いことも関係しています。2020年の日本の雇用者総数に占める女性の割合は45.3%にまで向上し、女性の社会進出が進む中、世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数をみると、2022年の日本は世界146カ国中116位であり、主要先進国では最下位です。また、帝国データバンクによる女性管理者の割合も9.4%と、政府の目指す30%には程遠く、女性活躍という面で日本は遅れをとっています。
女性活躍が叫ばれる中、日本企業も女性のための制度は整備してきましたが、その制度を活用できていません。生理休暇は、休暇制度として、産休や育休以外にも生理休暇を設けている企業は少なくありません。しかし、生理休暇を請求した女性労働者の割合は、たった0.9%です。単にフェムテックを導入すれば良いというただ流行り言葉にのっかって、制度を設けるだけでは、生理休暇の二の舞いになりかねません。
企業にとって必要になるのが、女性の健康課題に対する男性たちの理解の醸成です。企業向けのフェムテックサービスには、その第一歩としてセミナーや研修などによる認知のフェーズが設けられています。男性の理解醸成と併せて重要となるもう一つの要素が、女性自身の行動変容です。当事者にはなり得ない男性たちの理解を醸成するには、女性が何に困っているのかを想像するための材料が必要となります。目に見えない不調を他者が察することは難しく、重要なのは専門知識ではなく、女性が困っているという事実を知ることです。
医療機関への受診をサポートするサービスも必要です。医療機関と企業が提携し、オンライン治療を受けられるシステム作りも有効です。忙しい人やクリニックが近くにない人も利用しやすく、休憩時間やランチ中に受診することもできます。加えて、オンライン診療は婦人科に行くこと自体に抵抗感がある人の心理的ハードルも低くなります。正しい情報に気軽にアクセスできる環境を整えることで、女性自身の予防や改善につなげることが大切です。
健康は個人に帰属するものですが、雇用の流動性が低い日本企業においては、組織としての健康投資が生産性の向上に直結するだけでなく、人材の多様化や定着によって企業価値の向上にもつながります。女性の健康に資する取り組みは、女性の優遇でも男性にしわ寄せがいく仕組みでもありません。労働人口が減少し、既存の労働力の活用が求められる中、共に働く女性が本来の能力を発揮できれば、それは男性にとっても企業にとってもプラスになります。フェムテックの黎明は、日本企業がこれまで顕在化できなかった女性たちの困り事を認識するきっかけになります。

(Wedge vol.35 No.3 2023)
(吉村 やすのり)

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