少子化対策の新しい視点

2月末公表の人口動態統計速報によれば、2022年の出生数は79.9万人と初めて80万人を割り込みました。これは在日外国人や在外日本人を含むベースなので、日本にいる日本人の確報ベースでは、77万人前後となる見込みです。この半世紀、ほぼ一貫して出生数減少が進んでおり、コロナ禍でさらに急減しました。回復していた合計特殊出生率さえも減少に転じています。
コロナ禍の少子高齢化要因として顕著なのは婚姻率の低下です。2015~2019年の平均婚姻率は人口1千人当たり4.9でしたが、2020年4.3、2021年4.1、2022年4.2と急落しています。日本は結婚しないと出産しにくい文化なので、婚姻率の低下は深刻な問題です。また20~30歳代前半の既婚女性の出産控えもみられます。懸念されるのは、結婚や出産に対する若者の意識が変わり始めています。2021年の出産動向基本調査では、未婚女性の希望こども数が1.79人と初めて2人を下回りました。30歳代前半の男性の約3割、女性の約2割が一生結婚するつもりはないと答えています。
中長期トレンドの直接的要因は晩婚化、晩産化、非婚です。背景にあるのは、①進学率や就業率上昇で進む女性の機会費用増加、②教育費や住宅費などの育児の直接費用増加、③若者雇用の不安定化や低賃金化、④日本企業における働き方の柔軟性欠如などです。機会費用とは、女性が結婚や出産でキャリアを中断することによる逸失所得を言います。
1人の子どもにかかる教育費用や生活費は1,300万~3千万円程度です。この直接費用よりはるかに大きいのが、子育てに対する女性の機会費用です。大卒女性が子育て期にキャリアを中断することで被る逸失所得は、生涯で約2億円にのぼるとされています。高卒女性でも約1億円です。これらの莫大な費用と比較すると、月1万円程度の児童手当など、倍増させても焼け石に水と言えます。各種の現金給付や現物給付の効果は必ずしも明確でなく、効果があったとしてもわずかです。実際、幼児教育や医療費の無償化が近年実施されましたが、少子化のトレンドが変わっていません。
少子化対策を考える上で、女性の逸失所得の発生を防ぐことが大切となります。現在18歳未満の子どもを持つ女性の約3分の2が、第1子を産んだ後までにキャリアを中断しています。その原因は、旧態依然とした日本的雇用慣行とそれを支える専業主婦優遇などの諸制度です。日本企業の特徴である長時間労働、転勤の多さ、出産時期を先送りさせる遅い昇進制度などは、共働きが一般的な若い世代にとって、結婚と出産の障害となります。異次元の対策と言うのであれば、専業主婦優遇制度や日本的雇用慣行の是正に切り込むべきです。
少子化対策強化のためには財源確保が不可欠です。年金や医療、介護などの社会保険から少子化対策の財源を拠出させる制度が必要になります。子どもが増えて社会保険の持続可能性が高まることは高齢者の利益にもなります。高齢者にも公平な負担を求めるべきです。一時しのぎの手段に頼らず、正々堂々と財源確保の議論をすべきであり、以前検討されていた子ども保険はその有力な選択肢となります。高齢者を含む全国民に一律に保険料を課す仕組みで、子ども向け支出という使途を明確にすべきです。

(2023年3月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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