子宮頸がんワクチン接種の必要性

 子宮頸がんワクチンは、2009年に最初の2価ワクチンであるサーバリックス、2011年にはさらに4価ワクチンのガーダシルが発売されました。国は、201011月に接種費用の補助事業を始め、20134月に原則無料の定期接種としました。しかし、接種後に体の痛みや運動障害など重い副反応症状が多く報告されるようになりました。そのため、国は2か月後の20136月、定期接種としての位置づけは変えないまま、接種を促すハガキを送るなどの積極的な勧奨は一時中止すると決めました。国の追跡調査によれば、未回復の重い症状の副反応を有する患者は186人であることが判っています。
子宮頸がん予防のワクチン接種後に副作用報告が相次ぎ、国が定期接種としての積極的な勧奨を中止してすでに3年半が経過しています。この間、厚生労働省の有識者検討会は、副反応としてみられる症状は接種時の痛みや不安が引き起こした心身の反応との見解を示しています。WHOは、現時点でワクチン接種推奨に関する勧告を変更する必要のないこと、日本のワクチンの積極勧奨の再開をしない状況は、このままでは真の被害をもたらす危険があると名指しで非難しています。またワクチンを導入している国においては、国家接種プログラムとして接種率90%を達成することとしています。日本産科婦人科学会や日本小児科学会など15団体も、勧奨再開を求める声明を出しています。
 一方、20167月に副反応に苦しむ女性達63人は、国と製薬会社2社に対し集団訴訟を起こしました。さらに、201612月に57人が2次提訴を行いました。接種回数は2013年初めは月平均で約12万回でしたが、現在ではほとんど接種されていません。一方で、症状が接種を受けた女性に特有なものなのかどうかを調べる疫学研究も進んでいます。大阪大学の祖父江友孝教授を代表とする厚生労働省研究班が、全国の主な病院の約2万診療科を対象に、中高生らの症状の実態を調べています。
 ワクチン接種を実施している海外の国々からは、ワクチン効果や安全性に関する結果が続々と提出されてきています。わが国でこのまま積極的勧奨が行われずに裁判の成行きを見守るような事態が起これば、大変な状況を招くことになります。おそらく裁判で結審するまでには10年近くを要すると思われます。これまでの世界の報告を見る限り、提訴に科学的な根拠があるとは思われませんが、こうした状況が続く限り、若い女性が安心して子宮頸がん接種を受けることは難しくなります。不利益を被るのは若い人々です。現在、副作用で苦しんでいる女性に対しては、産科医療のような無過失補償制度を立ち上げることにより、救済することを考えなければなりません。一方で、若い女性が安心して子宮頸がんワクチンを受けられるような環境作りが何よりも大切です。今、ワクチン接種を再開しないと、日本の女性しか子宮頸がんに罹患しないといった状況を招きかねないことになります。将来、ワクチン接種をしなかったために子宮頸がんを発症した人に対して、一体誰が責任を取るのでしょうか。

(2016年12月18日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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