家庭内性暴力の増加

身内からの性暴力は表面化しにくく、被害が長期に及びがちです。警察庁の統計によれば、身内から子どもへの性的虐待の検挙件数は2021年は339件で、加害者は養父・継父が149人と実父が135人と大部分を占めています。近年、右肩上がりで増加しており、10年前の約3.5倍に上っています。

性被害自体が表面化しにくく、内閣府が16~24歳の被害者約2,000を対象に実施した調査によれば、47.3%が誰にも相談しなかったと回答しています。理由では、恥ずかしくて誰にも言えなかったが36.0%で最多で、相談しても無駄だと思ったが28.5%、どこに相談して良いのか分からなかったが25.7%などの回答をしています。
加害者が身内の場合、家族関係を守ろうとの意識が働き、より顕在化しにくくなります。自分さえ我慢すれば良いという心理状態に陥りやすいためで、こうした状況は、家庭内殉教と呼ばれています。性暴力は、心身に与える甚大な影響から魂の殺人とも言われます。PTSDから薬物や酒などに依存し、苦しみから逃れようとする被害者も少なくありません。
日本では、長らく学校現場で性に関する教育をすることに慎重でした。小中学校の学習指導要領に、性交について教えないとする歯止め規定があることに加え、小学生に性器の名称を教えるのは過激だなどとする約20年前の性教育バッシングの影響もあったことが関係しています。
家庭内性暴力の被害の深刻さを重くみて、2017年に刑法が改正され、性犯罪が厳罰化されました。親など生活を支える者がその影響力に乗じて性的暴行をした場合に適用される監護者性交罪、監護者わいせつ罪も新設されました。被害 の実態を踏まえ、暴行、脅迫がなくても罪に問うことが可能になっています。

(2022年11月17日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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