少子化の克服

 女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、1970年代中ごろまでは人口を維持する水準の2.1程度を上回っていました。1989年に戦後最も出生率が落ち込んだ1.57ショックを経験し、政府は1994年のエンゼルプラン以来、様々な少子化対策を相次いで打ち出してきました。しかし、少子化の波は止められず、昨年の合計特殊出生率は1.44と低迷したままであり、出生数も976,979人と初めて100万人を切りました。
 明治大学の加藤久和教授は、2035年までの出生・人口予測モデルを作製しています。仕事と子育てを両立させる指標には、社会保障給付費のうちの児童・家族関係給付費を用いています。これには保育所の運営費や児童手当、児童扶養手当などが入ります。児童・家族関係給付費は、2012年で国内総生産(GDP)に対して1.2%でした。これを2.0%に上げると(標準成長モデル①)、2035年に出生率は2.10に達します。1.2%のままでも(標準成長モデル②)、1.77です。子育てに多くのお金を投じれば、出生率は上がります。高めの経済成長が実現すれば(高成長モデル)、やはり出生率は1.95になります。このモデルの信頼性は、推計開始年から1980年まで遡った過去の分でも確かめられています。その計算値は、出生率の実績とほぼ一致しています。2005年に1.26で底を打って上昇するのも再現できています。実際、児童・家族関係給付費は2000年の0.5%から増加傾向にあります。
 家族関係社会支出を増やせば、合計特殊出生率は上昇します。問題は財源です。対GDP比の1.2%は、2012年には55千億円でした。2%まで高めていくなら92千億円、あと37千億円が必要になります。男性の育休取得促進なども試みるべきですが、やはりこの財源は消費税を引き上げて充てるべきです。そのほか、50兆円を超える高齢者向け年金給付の一部を回すことも考えるべきです。わが国にとって大切なことは、子どもを育てることだという決意を、国民一人一人が持たなければなりません。

(2017年8月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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