幼児教育の無償化に憶う

 わが国の子どもの貧困率はOECDの平均を上回っており、主要36ヶ国中24位です。経済格差を示す相対貧困率もなお高率にあります。特にひとり親世帯の過半数は、貧困状態のままです。政府が閣議決定した経済財政運営の基本方針である骨太の方針では、教育格差の是正化を目指し、幼児教育・保育の無償化に言及しています。国際的にも明らかに見劣りする家族関係社会支出を考えれば、少子化の危機を突破するための政策として、教育の機会に恵まれない子どもに質の高い教育を施す上で有意義と考えられます。また幼児教育への公的資金の導入は、将来の所得の上昇や経済成長への貢献などにより収益率が高くなると考えられています。母親が安心して子どもを預けられる環境は、女性の就労支援や活躍にもつながり、社会的にも大きなメリットを生み出します。
 一方で、幼児教育の無償化は教育格差の解消にはつながらないとする考え方もあります。現行の保育料は、支払い能力に応じて費用を負担する応能原則により、低所得者世帯では減免措置があるので、無償化は貧困世帯には恩恵はあまりありません。一方、保育料を払っていた中高所得世帯にはゆとりができ、習い事や塾に通わせるための支出を増やすことができます。その結果、低所得家庭と中高所得家庭の教育支出の格差がかえって広がる可能性も否定できません。わが国の現状では、一律の幼児教育の無償化ではなく、保育所や幼稚園に通えない子どもの支援が必要だとする考えもあります。
 幼児教育の社会福祉的な貢献を無視することはできません。これまで優先されてきたひとり親家庭などの利用者の利益は守られるべきです。その方法とは、保育所の優先枠のような現物ではなく、現金給付で対応することも必要となります。待機児童が多く、保育士不足などの保育施設の量的な問題が解決できていない現状を考えれば、幼児教育・保育の無償化についても、質の改善を含めた望ましい支援のあり方を考えるべきと思われます。

(吉村 やすのり)

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